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☆アイテールの絵本屋さん☆

☆アイテールの絵本屋さん☆

アルカディアの聖域~第二章前編その2~

気が付くと私は、元の世界に戻っていた。

---涙が止まらなかった。


「これが、記憶よ・・・・・・」
母の方を向き、私は言う。
「ご主人様が、じんじゃっだよおおおおおおおおおお!!!」
私は母の胸に飛びつき、泣きながら叫んだ。
「ごめんねぇ・・・ なにもできなかったよぉ・・・!」
ふと、側にケルビーが身をすり寄せていた。
その瞳には、涙がたまっていた。
「ケルビー、私、側にいたのにっ、なにも・・・ なにも・・・・・・!」
ヒックヒックとしゃくり上げ、頬から伝う私の涙を、ケルビーがぺろりとなめる。
きっとさっきのケルビーはこの子だったんだ・・・
私は、ケルビーを抱き、母に抱かれながら、長い時間泣き続けていた。

『落ち着いたか?』
ケルビーが私に聞く。
「うん・・・ もう、大丈夫・・・」
「辛い思いをさせていまったわね・・・」
母は辛そうに私を見た。
「ケルビーの悲しみに比べたら・・・ 私は傍観者だったから・・・・・・」
『アイテール・・・』
「アイ・・・・・・」
母とケルビーは、座り込んでいる私の側でじっとしている。

「ケルビー」
『なんだ? アイテール』
「私と一緒に、生きていこう」
ケルビーは、しばらく動かなかった。
「ケルビーはね、その女の子にとって誰よりも誰よりも信頼できる友人だったんだよ・・・」
『アイテール・・・』
ケルビーは、首を横に振った。
『私はご主人を目の前で死なせてしまった・・・ 現世に戻る価値など、ありはしない・・・』
アイは悲しそうな目で、ケルビーを見る。
私はたまらなかったのだ
目の前でご主人が死んだ。
私は何も出来なかったのだ・・・・・・
リンスレットに拾われるまで、私はその事をずっと後悔していた。
後悔した 後悔して後悔して、頭が張り裂けそうだった。
できるなら今この場で己の舌を噛みちぎりたかった。
そう思った・・・
「ケルビーの馬鹿野郎!!」

突然アイが私の前に立ちはだかり、私の頬に平手を一発。
『な・・・ なにをする!!』
「うるさい!! 何が後悔しただ! 
何が舌を噛みちぎるだ!! そんな事して、あの子が喜ぶわけないだろう!! 
ケルビーは生きなきゃダメだよ! 
どんなに辛くても、どんなに苦しくても、女の子のために体を張って助けたんだ! 
あの女の子が今この場にいたら、きっと私とおなじようにしているはずだよっ!!!!」

『お前に・・・』
私はもう我慢の限界だった。

『お前に何が解る!! あの時から214年!! 
ずっと後悔しきってまだ足りないのだぞ!! 
私は寿命という物がない、だから! 
今までの私の苦しみも知らないで勝手なことを言うなぁ!!!』

アイは、黙った。
私はアイをにらみつけ、こう言った。

『私はもう! 誰とも契りはせぬ!! あの頃からそう決めたのだ!!』

「たしかに・・・ 私はケルビーの苦しみは解らないよ・・・ 
貴方はずっと後悔して生きていた・・・ 
まだ17年しか生きていない私には解らないほど、深い苦しみだったんだね・・・」
私は押し黙った。
何故私はアイテールに当たり散らしているのだ・・・
彼女は私に何もしてないではないか・・・・・・・・・ 平手は食らったが。

「でもね、私は、ケルビーの気持ちがわかるよ?
私も目の前でおかーさんが殺されるのを見たの 
剣で背中刺されて、おかーさん動かなくなったんだ・・・・・・」

『・・・・・・!!』
「アイ・・・・・・」
リンスはアイを見ながら、涙を流した。
「最初から解ってたの・・・ おかーさんは、本当のおかーさんじゃない」
アイはリンスの方を向き、涙を流しながら、笑った。
「・・・・・・アイ・・・・・・!!」
リンスは涙を堪えることが出来ず、アイにすがりついた。
「泣かないで? おかーさん 私、おかーさんのこと大好きだよ・・・・・・」
「ごめんねぇ・・・ 私、アイに、とんでもないことを・・・」
リンスはただただ謝罪の言葉を述べるばかり。
「よしよし・・・ おかーさんは、私の大切なおかーさんだよ・・・」
アイは目に涙をため、母の頭を優しく撫でた。
『・・・・・・・・・・・・』

私は、言葉がなかった
この少女も深い苦しみを覚えながら、今まで生きてきたのだ。
生みの親が目の前で死んだ、私には理解できない苦しみを背負っていたのだ。
彼女の人生は、明るかったのだろうか
彼女はきっと、大切な仲間を見つけ、両親の影を追いながら、賢明に生きていたのだ。

「悲しみは何も生まない、憎しみは己の身体を滅ぼすだけ」
アイは私の方を向き、静かに笑いながら
「貴方はもう、それを知っているはずだよ」
そう言った。
私は、アイがご主人に見えた。

『ご主人・・・・・・』
「なぁに? けるびぃ」
『・・・・・・』
・・・・・・確かにアイテールだ。 だが、私にはご主人に見える。
『すまなかった・・・・・・』
「なんであやまるの~? けるびぃはぁ、私の友達でしょ?」
『私を・・・ 許してくれるのか?』
「なにいってるの? 私は怒ってなんかいないよぉ」
アイは笑顔でそう言った。
「けるびぃは、私の分まで生きてくれた、今度は、このおねーちゃんのために生きて?」
『ご主人・・・・・・』
ああ、やっぱりだ
この子は私のご主人だ
『ご主人の命ならば、私はなんでも聞こう』
アイはにっこり微笑んで、約束! と小指を出した。
『ああ・・・ もう私は後悔はしない 新たなご主人のために、私は生きよう!』
「えへへ~ けるびぃは良い子だねぇ」
まるで子供のように無邪気に笑い、私の背中に顔をすり寄せるアイ。
今なら私は、愛おしいと思えよう。 この瞬間を・・・・・・

やがてご主人は、アイの身体から離れ、小さな、光りになった。
『おねーちゃん、てをだして』
やがて聞こえてきた光りの中の声。
それは紛れもない私のご主人・・・・・・
アイは言われるまま、光りに向かって手を差し出す。
『おねーちゃんに私の大切な宝物、あげるね♪』
「ありがとう、アラン」
その光りは、やがて形を変え、一つの笛になった。
『ご主人・・・』
「ケルビー、あの子は幸せだったって、貴方に出会えて」
アイは、笛を握りしめながら夕焼けの空を眺める。
今まで気付かなかったが、この世界ではもう、夕方になっていた。
『ああ・・・ 私も幸せだった・・・・・・』
私は地面に座りながら、夕焼けの空を見つめる

「アイ・・・・・・」
するとリンスが心配そうにアイに話しかけた。
「私は前のお母さんではないわ、だけど、私はアイのことを大切に思ってる」
アイは振り向くことなく、夕焼けに染まった広い空を眺めている。
「私はアイを自分の娘呼ばわりする権利はないわね・・・ 母親失格だわ・・・・・・」
「おかーさん」
アイは空を見ながら
「おかーさんはおかーさん 前のおかーさんじゃない」
リンスは黙る。
「でも、今はうちの大切な家族、大切なおかーさんだよ♪」
リンスの方へ向き直り、にっかりと意地悪く笑うアイ。
「つか、キャラコロコロ変えないでw 対応が苦しいからw」
苦笑しながらリンスにわらいかける。
「アイ・・・・・・!」
「だーもー 泣かないの! ほら、こっち座りなさい 愛しの娘が慰めて上げる♪」
・・・・・・私は、幸せだった。
アラン、見ているか? 私は今、たった今、新しい家族に巡り合うことが出来たぞ・・・・・・

「解ったわ、またいつでも遊びに来てね」
リンスはアイの肩を抱きながら、これから向かう世界への心構えを話していた。
「当たり前でしょw いつでもおかーさんに会いに行くよw」
そう言うと母はにっかり笑ってこう言った。
「もう心融召喚はできるからね~」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?


「まって、心融召喚って召還獣と心をかよわせることが必要だって・・・」
『ヴァリスだ ご主人はアランの記憶と私の記憶を見ただろう?』
ケルビーが私に向かってそう言った。
「まぁ、ケルビーしか今は無理だけどね~」
リンスは笑いながら召還獣達をみた

『そうだね、まだ僕達は心融できないよ』
とウィンディ、目が悲しそう・゚・(ノД`;)・゚・

『はやくしたいねぇ~』
とスウェルファー、この子に至ってはあんまり興味はなさそうだ

『きゅう♪』
とヘッジャー、どうやらきゅうきゅう鳴くだけらしい

アイはケルビーを見て、手を差し出した。
『なんだ? ご主人』
「これ、アランちゃんが持ってたの」
『ふむ・・・ 首輪か? トゲトゲが付いているな』
「巻いてあげよっか?」
『ああ、お願いするっていたたたたた!! 馬鹿者!お前は私を閉め殺す気か!?』
「あはははw」
と楽しげにじゃれついているアイ達を見ながら、リンスは一冊の本を出した。
そこに、魔法でペンを出し、こう書いた。

<アイテールは根元の称号を得た>
<よって心融の術を身につけた>
<彼女は聖域に新たな恩恵をもたらすだろう>

そう書き記した後、リンスは本を閉じた。
「さて、もうそろそろアイは帰る時間ね、友人達が心配してるわよ?」
リンスはアイ達にそう言いながら、召還獣達の方へ歩いていく。
「また今度くるからね!」
『私もだ、ここにいると落ち着くしな』
二人は顔を見合わせ、ふふっと笑った。
「あ、アイ この子達は置いていってね」
母の言葉にまたアイは首をかしげる
「なんで?」
「この子達も、心融召喚を覚えないといけないのよ」
母の話によると、心融召喚は召喚術師達だけではできない技らしい。
精霊自身もそれなりの修行が必要だそうだ。
「んで、私達はどうやって帰ればいいの? ここにはうちは召喚されたわけだし」
アイがリンスに問いかける。
『ここは外界からは干渉できないそうだが、内界からは干渉できるのか?』
と、ケルビー。

母はふふっと笑うと、いきなり自分の腕に噛みついた!
「うあー! バカーーーー!?」
私は動揺してあたふたと手を振る。
母の腕からは血が流れていて、目に見えて重傷であることが解る。
どんな歯をしてるんだうちのおかーさんはっ!!
「いい? 今から起こる事をよく見てるのよ?」
なにをのんきなーーーーーー!!
母の腕からたれた血が、地面をドス黒く染まらせる。

「これがヴァリスよ・・・・・・」

そう言いながら母は傷口にふぅ・・・ と息を吹きかける。
母の奇怪な行為に私は言葉を出すことが出来なかった。
これのどこがヴァリス・・・・・・?
そして母は手のひらに少量の血をすくい、私の方に向けてまたふぅ・・・ と息を吹いた。
するとどうだろう
母の傷口は跡形もなく無くなり、地面に落ちていたはずの血も無くなっている。
私は感心していると、右腕に突如激痛が走った。
「な・・・・・・!」
右腕からはさっき母が噛みついた傷跡が浮き出ていた。
そこからはどくどくと鮮血が流れ、私の身体の力を奪っていく。
「う・・・ ああぁ・・・・・・」
止まらない・・・・・!
意識が遠くなりそうだった。 もう痛みはない。
ただ、自分の中から生暖かい液体が腕を伝って地面に落ちていくことが解る。
「ヘッジャー、お願い」
母は短くそう言うと、ヘッジャーを私の目の前に向ける。
ヘッジャーは長い舌を出し、私の傷口をペロリと一回嘗めた。
私は、その光景を見ることは出来なかった。
ヘッジャーを見た瞬間猛烈な眠気に襲われたのだ。
「ヘッジャー、ありがとう」
『きゅぅ♪』
リンスの腕の中で丸くなったヘッジャーは、静かに、黄色の光を放ちながら消えていった。
「さて、ウィンディ、スウェルファー」
リンスはアイが召還した二匹の召還獣を見据えながらこう言った。
「あなた達にも試練を与えるわ 心融召還術の、ね」
二匹の召還獣は何も言わず、ただコクリと首を縦に振った。


同時刻ーアリアン住宅街

「どこかな~ っと・・・」
辺りの建物をキョロキョロ見ながらトグが呟く
「すこし、休憩、しませんか? 私は、ちょっと、疲れて、きました・・・・・・」
トグは後ろを向いて苦笑した。
「昔は宵闇の魔女と呼ばれていたお前が、こんな滑稽な動きをするとはな」
イクィは息を切らしながら、重い荷物を背負っている。
その重さ、ゆうに7キロ強はあろうか。
しかしトグはその荷物を物ともせずに歩き回っている。
トグの捜索は至って単純だ。
ただ歩き回る それだけである。
それに振り回され、いくら腕の立つ槍使いといえど、やはり女なのだ。
「トグ様は、身体が、異常でしょう? 私は、こう見えて、女なのですか・・・ あっ!」
歩いてる途中に砂の地面に足を取られたようだ。
イクィは顔から地面に倒れた。
と思った。 思ったが・・・・・・

「大丈夫か?」
倒れてない・・・・・・?
声の方を見ると、トグが心配そうな顔で見ている。
「え・・・ あ、え・・・・・・?」
イクィは訳もわからず、トグの腕の中で顔を真っ赤にしながらキョロキョロしている。
「すまない・・・ 俺が無理な事言ったからだな・・・・・・」
なおもじっとイクィを見つめ続けるトグ。
イクィはたまらなくなり、顔を両手で隠しながら
「ぃぇ・・・・・・」
と小さく答えた。
「どうした? 顔が痛いのか? どこか打ったか?」
よほど心配なのか、イクィに質問攻めをするトグ。
イクィは顔を隠したまま、ふるふると頭を振る。
彼にとってイクィは掛け替えのない友であり、パートナーだと信じている。
そのパートナーが自分のせいで傷を負ったのだ。心配するなと言う方が無理だろう。
「なっ! 何でもありません! 早くしないとあの子たちを見つけられないんですから!
こ、こんな事をしているヒマがあったらさっさと歩いて下さい!!」
そう言うイクィだが、顔を真っ赤にしている。
「今日のイクィはよく喋るな・・・・・・」
トグは口元に微笑みを残しながら、イクィを抱き上げる。
「あ・・・・・・」
「これなら楽だろう?」
そう言うとトグはイクィの荷物を背負い、再び歩き出した。
「じ、自分で歩けます! 降ろして下さいぃ!」
半分悲鳴に似た声が口から出て、あわてて口を両手で隠すイクィ。
「ダメだ、今ので足首をひねっただろう? 病人に荷物は持たせられないからな」
あえて言うが
トグの抱き方はいわゆる【お姫様ダッコ】である。
これを女性がやられると、真っ正面に男の顔が見えてしまうため、とても効果的・・・
もとい、色んな意味で危ないのである。
「お前は俺の大切なパートナーだ こんなところで放っておくわけないだろう?」
イクィはそっぽを向きつつ
「喋っているヒマがあったら、動いて下さい・・・・・・」
と呟いた。
トグはそれを見ながら苦笑しつつ、二つの荷物を持ち直し、歩き始める。
「トグ様・・・・・・」
腕の中のイクィがトグ上目使いで話しかける。
「何故、私が足を捻った事がお分かりになったんですか?」
トグは一瞬怪訝そうな顔をした後、ああ と小さく呟く。
「いつも見ているからな、イクィの事・・・・・・」
頭をかきながら顔を赤らめそう言うトグ。

言葉がなかった。
ただ、嬉しかった。
こんなにも私のことを思ってくれる人がいるなんて・・・・・・
でも、私は不器用だし、気立ても良くない。
そして私はこう言うだろう
「馬鹿・・・・・・」
「ははっ イクィらしいな」
私は、不器用だから、いつか本気で彼に甘えたい・・・・・・
いつか、いつか・・・・・・ 心から「好きだ」と言いたい・・・・・・ 
そんな日が、いつか来ると良いと思った・・・・・・
「んでもお前、胸大きくなったなぁ 前に見たときはあんまり無かったけど」
トグはイクィの胸を凝視しながらそう言った。
「な・・・・・・!」
トグはどうかしたのか? という顔つきでイクィを見る
「ば・・・」
「ん?」
イクィの怒り爆発 ただいまの怒りゲージ五本目突入(マックス6本)
「バカァーーーーー!!」
「いてぇ!!なぐるなよ~;;」
もう! 雰囲気ぶちこわし!!
そして二人は、数分後、とてつもない光景を目にすることになる。


ー・・・・さん・・・・
(ん・・・・・・)
ーお・・アイ・・・・
(んん・・・ もうちょっとだけ寝かせて・・・・)
ーアイ・・ルさん
(誰か私を呼んでる・・・・・?)
ーアイテールさん!!

「うわぁ!!」
私は飛び上がり(実際に数センチくらい)そのままベットの横に倒れ込んだ。
床に強打。 頭と膝打った・・・・・・・゚・(ノД`;)・゚・

「ああもう!心配したんですから!!」
とフロが手をばたばたさせながら鳴きそうな顔でこっちを見ている。

「お願い・・・ もうちょい優しく起こして・・・・・・」

「よかった!ふだんどうりだ!!」

「キイテネーノカヨ」

私は起きあがり自分のいる場所を確認する。
アリアンの宿屋だった。
かすかなランプの炎がゆらゆらと揺れている。
側ではハースが二つの短剣を凝視している。
(さっきからずっとあんな感じなんです・・・・・・)
とフロが私に耳打ちをする。
「おお、アイ 目が覚めたか?」
ハースが視線を短剣から離し、私の方へ笑いかける。
「おかげさまでw 二人とも、心配かけたね~」
アイは小さく頭をぺこりとする。 フロもハースもにっかりと笑う。

フロはアイがいなかったときの自分が体験した話や、外にいた二人組のことなどを話した。
アイもさっきいた空間の話を二人にした。
白い空間から母の死んだときの空間
緑が生い茂るリンスのいた世界
そして、アランとケルビーのヴァリス

「妙な話だな~」
とハースが顎に手を当てながら呟く。また短剣を凝視しながら話している。
「本を見ただけでそんな体験するなんて 今まで各地の依頼を聞いてやっていたけど
そんなのは一度もなかったなぁ・・・・・・」
私はアランから受け継いだ笛を取り出し、ハースに見せた。
「これはなにだかわかる?」
ハースは一瞬きょとんとして、笛を受け取りしばらく眺めていた。
「こ・・・・・・ これは!!」
とハース
「なに! なんなの!」
その刹那、空中から炎が生まれ中からケルビーが出てきた。
『私も聞きたいな アランがご主人に託した物だ 相当な魔力を秘めているに違いない』
「貴方がケルビーさんですか?」
突然現れたケルビーに戸惑いながらも、フロが話しかける。
『ああ、私が炎獣ケルビーだ よろしくな』
「あ、僕はフロワードです アイさんに引き取ってもらってこの街でなんでも屋をやってます」

二人が互いに自己紹介をしたのを見計らい、ハースが笛の解説に入る。
「これは昔、ロマ街で作られた笛だ。 しかも赤い日の以前の物だな
劣化はしているが中の魔力は衰えていない 今もすさまじいオーラが出てるよ・・・・・・」
アイとフロとケルビーはハースの横に座り、解説を聞いている。
「ここに赤い紋章があるだろう?
昔の召還師達は何かを媒介に召還獣を呼び出していたんだ
ケルビー これは君がアイと契約した証だ
きっとその少女もそれだけの天才だったんだろう・・・・・・」
「ほええ・・・・」
『アランが天才だという事は嫌でも知っているがな』
ケルビーはまるで自分が褒められているかのように二本足で立ち、胸を張る。
「で、この笛の名前はなんて言うんですか?」
フロがハースに問いかける。
「レミネッサ そう呼ばれていたと思うがな」
「おー ハースものしり~w」
ハースはアイに笛を返し、いやぁというように身体をクネクネさせる。
昼間の倍はクネクネしている ヤッヴェ吐きそう・・・・・・

『して、お前は何者なのだ? ハース』
ケルビーがハースに言う。
「へ?」
ハースは何を言っているのか解らず、ケルビーの方を向く
『それだけ武具に詳しいのなら、なにか秘密が隠されていてもおかしくはないだろう?』
「ちょっと、なにいってんの~w」
アイはおどけてケルビーをつつく。
「そうですよw ハースさんはただの冒険者ですよ~」
ケルビーはまだ警戒しているようだ。
「ごめんね この子始めて見る人だから警戒しているみたいなの」
アイがハースに謝る。
「いあ、いいんだよ さっきの話を聞いている限りこの子は辛い思いをしているんだから」
ハースが手を伸ばし、頭を撫でようとする。
しかしケルビーは尻尾でハースの手を振り払う。

『貴様、人ではないな!! 魔物か!!』

アイとフロは訳もわからずケルビーを見ている。
いきり立つケルビーを見て、ハースも戸惑っているようだ。
「ちょっちょ ちょっとまてよ、何で俺が魔物なんだよ!」
『ふん、人間に偽装しているが私の鼻ごまかせんぞ!』
「ほう、じゃあ証拠を見せてもらおうか 俺が魔物だって言う証拠をね」
ハースがケルビーの挑発に乗り、アイ達はおろおろしている。

『我が炎は大地を切り裂き、生きとし生けるものを全て浄化させる力を持つ くらえ!!』
そういってケルビーは空中で身体を半回転させ尻尾の炎を魔力で増大させハースにぶつけた

炎の召還獣であるケルビーの得意技 フレームリング
尾の先にある炎を自ら構成した魔力円に載せて周囲に拡散させる技だ。

とたんに炎が部屋を支配し、ハースやアイやフロに火の粉がかかった。
「きゃぁ!」
「アイさん! うわぁ!!」
二人は炎にまみれたハースを見た。
『これが貴様の正体か!! やはり私は間違ってはいなかった!!』
ハースは部屋の中央で火だるまになり、やがて地面に倒れ込んだ。
辺りを嫌な臭いが包み込む。
「ケルビー! なんて事をするの!?」
アイがたまらず怒鳴り散らす。
こいつはまだ人間を憎んでいるのか! そう思った。
するとケルビーは私の思考を読みとれるのか、そうではない と言った。
『少し落ち着けご主人 私の魔力は邪の者にしか反応しない
現にご主人やフロワード殿には傷一つ付いていないだろう?』
二人はあわてて体中を手で探る。
二人の身体には焼けこげ一つ付いてはいなかった。
「じゃあ・・・ ハースは・・・・・・」
アイが丸焦げになった人間の死体を見つめつつ、呟く。
『おそらく、邪の何かが関連した者だったのだな
私も現世では始めて見たが・・・・・・ よもやこれほどまでとは・・・・・・』
ケルビーの話によると、傷の多さは魔物である可能性が高いほどダメージが大きいらしい。
丸焦げになったところを見ると相当な邪を抱えていたことが目に見えて解る。

『とにかくここを出た方が良い 放っておくとこの者はいずれ消滅するだろ・・・!!?』
言いかけるケルビーの腹に、大きな剣が刺さっていた。
『くっ 不覚を取るとは・・・・・・!』
ケルビーは歯を食いしばり、光りとなって消えていってしまった。

「すげぇなぁこの魔力はぁ! 体が熱くてもういらいらしてくるなぁ!!」

そう、丸焦げになった死体のハースが言う。

「だけどおめぇらもここでおわりだ! 俺様が覚醒した今、てめぇらはどうすることもできねぇしなぁ!」

そう言ってハースであった者は高笑いを始めた。
不快な笑い声だった。 まるで全身を冷水が流れていくような声。
アイとフロは恐怖に顔をゆがめている。

「おっと、犬をやっちまったせいで剣がぼろぼろだぁ! こりゃあさっきの短剣を使うしかねぇなぁ!!」

ハースは不敵な笑みを浮かべながら二人に近づいてくる。
「フロ!逃げて!!」
アイが叫ぶ。
フロは窓まで走ろうとするが
「おっとぉ 大事な獲物はにがさねぇぜぇ?」
にたにた笑いながら、ハースは短剣を振った。

フロの首がぱっくり割れる。
そこから驚くほどの量の血が吹き出した。
「あ・・・ がっ・・・・・・」
フロの顔は苦痛に歪み、床に倒れ込んだ。

「目障りなガキだぜぇ! まぁこうしておけば数分たったら死ぬけどなぁ!」
ヒャーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!!
「いやぁ・・・・・・」
アイは恐怖に声が出ない。
「おっとぉ・・・もう一人邪魔な雌猫がいたなぁ・・・」
ハースはゆらゆらとアイに近づく。
「そうだなぁ! お前は犯して遊び尽くしてから殺ることにするかぁ!」
不敵な笑みを浮かべ、アイの前に立つ。
恐怖が最高潮に達したのか、アイは金切り声を上げた。

「いやあああああぁぁぁぁ!! こないでええええぇぇぇえぇええええ!!!!!」

ハースが一瞬顔をゆがめ、地べたに座り込んで悲鳴を上げているアイの腹部に剣を突き立てた!!
「そんなに大声出したら近所迷惑だろう? せっかく可愛い玩具にしようと思ったのによぅ!!」
アイはぐったりとして、動かなくなった。
ハースは二人を始末しようとして、ベットに寝かす。
「ほぉぉ! ガキがぁ! まだ息があったのかぁ!!?」
ハースがフロに向かって言う。
フロはまだ息があるようだが、喉元を切り裂かれているのでヒューヒューという空気音しかでない。
「まぁまずは女を犯してからだぁ! ヒャハハハハハハハハハァ!!」
そう言うとハースはアイの衣服を短剣で切り裂いてく。
そこでハースの手が止まった。

「遅かったか!! イクィ!!!」
「はい!!!」

ドアからいきなり二人の男女が現れ、女が手に持っていた槍をハースに投げつける。
「ちっ」
ハースは短く舌打ちをし、体制を低くして槍をかわす。
槍はそのまま壁に突き刺さり、大きなへこみを作った。
「魔道か しょうがねぇ ここは一端退くか」
ハースはそう言いながら、窓から外へ飛び降りる。
おとこが間髪入れず叫ぶ
「イクィ!お前はあいつを追え! 俺はこの子達を治療する!」
イクィが壁に突き刺さった槍を手に取り、窓の外へと出て行く。

トグはまずフロの方への治療を開始する。
「死ぬなよ・・・・・・ お前は聖域の仲間なんだからな・・・・・・!」
トグは短く呟き、フロの首筋の傷に手をかざす。
「精霊よ! かの者に祝福を与えよ!!」
そうトグが叫ぶと、床に落ちていたフロの血がみるみるうちに傷口に吸い込まれていく。
最後の一滴になった後、フロの傷口が光りに包まれ、やがて塞がった。
「大丈夫か? 坊主」
トグは優しく話しかける。
「は、はい! 大丈夫です!」
「うし、じゃああのこの着替えを大至急持ってきてくれ
このままじゃ治療が終わっても恥ずかしい姿のままだからな」
フロはアイのほうを見る。
アイの服は無惨に切り裂かれ、胸があらわになっている状態だった。
それに腹部の出血がひどい。 いまずぐ手当をしないと助からない状態だった。
「解りました! アイさんを・・・ アイさんを助けて下さい!!」
そう言うとフロはドアの外へ駆けだしていった

「嬢ちゃん、死ぬんじゃねぇぞ・・・・・・」
トグはアイの腹部に手を添え、フロの時と同じ治療をした。
「ありがとうマッチョガイ・・・・・・」
そう力無く言うアイにトグは
「敬意として受け取っておくがな」
そう苦笑した。
やがてフロが着替えを持ってきて、男二人はドアの外に出る。

「トグさん・・・・・・ ですか?」
大柄の男はドアの前に立ち、神妙な面持ちでなにやら考え込んでいた。
「あの! 僕はフロワードです! 助けてくれて有り難うございました!!」
トグはフロの方へと向き、かがみ込んでフロと目線を合わせる。
「怖かっただろ? だけどもう大丈夫だ 俺が付いてる限りお前らは死なせねぇ」
そう言ってトグはしゃくしゃとフロの頭を撫でた。
フロは目に涙をため、トグにありがとうを連発していた。
やがてアイの着替えが終わり、二人は部屋の中に入る。

「まずは現状説明だ お前らと行動を共にしていたハースという男は魔群とよばれる魔物の雑魚集団の一匹だ」
トグが早口でまくし立てる。
「お前らは戦うことが出来るな?
魔群はもとより普通の人間が何物かによって邪の意志を植え付けられた集団なんだ
だからお前らがとどめを刺さない限り、あいつは死んでも死に切れねぇ」
そこまで言ってトグは、二人の方を見る。
そして一言

「殺れるか?」

そう聞いた。
二人は決心して頷く。
「うし、じゃあ行くぞ!フロ 魔導銃とカートリッジを出してくれ」
フロは言われるままトグに渡す。
「魔導銃はな、これがあって始めて力を活気するんだ 覚えておけ」
手慣れた指使いで魔導銃にカートリッジを取り付けフロの方に放り投げる。
フロはあわててそれをキャッチする。
魔導銃は淡く緑に光り輝いていて、はたからみても相当な魔力を帯びたことが解る。
「ナイスキャッチだ それとアイ、もう召還獣を出しても良いぞ」
トグがアイに向かってそう言う。
「え・・・・・・ だってケルビーはもう・・・・・・」
「召還獣は基本的に現世では死なないのさ 少し時間をおいて召喚すれば元通りだ」
アイはトグに言われるまま、ケルビーを召喚する。
炎が空中に生まれ、その中から赤い獣の姿をした召還獣が現れた。
『ご主人、怪我はなかったかっておおおう!?』
「「ケルビー!会いたかったよ~~~~!!」」
アイはケルビーの姿を確認するなり、飛びつく。
『トグ殿が言ったように私があれくらいで死ぬと思うか?』
「死んだかと思ったの~~~~;;」
ケルビーはアイの顔をペロペロ嘗め、安心させる。

「じゃれつくのはここまでだ みんな、決戦だぜ!」

「はい!!」

「ハース・・・ 私が元に戻して上げるからね・・・・・・!!」

『一筋縄ではいかないな 気を引き締めていくぞ!!』
そしてアイ達は、夜のアリアンの街へと飛び出していった。
(待ってて・・・・・・必ず救ってみせる・・・・・・!!)
アイはそう心に誓い、フロ、トグ、ケルビーと一緒に街を駆けめぐっていく。
「いたぞ!あそこだ!!」
トグが叫ぶ アイとフロはトグの見ている方向へ駆け出す。
そこでは、イクィとハースの凄まじい戦いが始まっていた。

「ハース!! 貴方は私が助ける!!!!!!」


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